久しぶりに買い出しで街へ出ることになった。


「では、お願いしますね、なまえさん」
「はい。久しぶりなんで、ちょっとワクワクしてます」
「ふふ、暗くなる前には帰って来てくださいね。はい、これも忘れずに」
「あ、ありがとうございます」

そう言ってしのぶさんに手渡されたのは、懐に隠せる程度の短刀だ。
もしものときのために、と街に出るときは持って行くように言われている。
丁寧に、藤の花の毒が塗られているものだ。

今まで一度も使ったことはないけれど。




「じゃあ、行ってきますね」
「はい、お気を付けて」

玄関まで見送ってくれたしのぶさんに手を振って、街へと向かった。











今日は買うものが多いので、効率良く回らなければいけない。
しかも、さっきまで晴れていたのに、空が暗くなってきてしまった。

これはまずい。

雨に降られるのも困るが、太陽が隠れてしまうと鬼に遭遇する可能性が出てきてしまう。
これまで暗くなってから外に出たことがなかったので、少し恐怖心を抱きながら買い物を急いだ。

















「おにいちゃーん!!」

買い物を終えて帰り道を急いでいると、目の前で小さな女の子が泣いているのを見付けた。
見たところ迷子のようだ。


「どうしたの?」

話しかけると、女の子はボロボロ泣きながら、おにいちゃんがいない、と言った。
聞けば、さっきまで一緒に歩いていたのに、いつの間にかいなくなっていたらしい。


空を見ると、既に暗い雲が空を覆っていた。
ぶるりと、思わず体が震えた。





「わかった、おねえちゃんと一緒に探そう?だから泣かないで」
「うん!」

そう言って、女の子の手を引いて歩き出した。














どれくらい歩いただろう。肌感覚でおそらく15分くらいだろうか。
女の子の兄がいなくなったという場所を中心に探したが、まだ見付からない。
少し雨も降ってきた。あまり長時間歩くのは危険だ。



少し入り組んだ路地に入って、一気に人通りが少なくなった。

そして、ある路地の前を通り過ぎた瞬間、ぞわっと悪寒が走った。


なんだろう、この感覚。

一気に鳥肌が立った。




「おねえちゃん?」

女の子が心配そうにこちらを見上げる。
なんとか恐怖心を抑えながら、女の子に笑いかけた。


「なんでもないよ。あのね、さっきお兄ちゃんっぽい人を見かけたの」
「え、ほんと!?」
「うん。でも、この辺は人が少なくて危ないから、あっちの大きな通りのところで待っててもらってもいいかな?もしお兄ちゃんなら、すぐに連れてくるから」
「わかった、ありがとう、おねえちゃん!」


女の子は駄々をこねることもなく、言った通りに大通りの方へ行ってくれた。
それを見送って、先程の路地へと向かった。







どうか杞憂で終わってほしい。

そう願いながら路地を覗いた。










そこには、

女の子の兄であろう男の子と、彼を今にも襲おうとしている、異形の化け物の姿があった。